様々な歯に関する調査から、歯周病などの歯の健康が全身の健康に深く影響していることがわかっています。メタボリックシンドロームや糖尿病、心臓病などと深く関わる歯の健康について今回は基礎知識から予防方法・健康を保つコツを紹介していきます。
歯の健康は全身の健康に大きく影響している?
歯の健康が全身の健康に影響していると聞いてもピンとこない方もいらっしゃるでしょう。
実際、厚生労働省の報告によると80歳での歯の残存歯数は平均で20本以下であり、8020運動(厚生労働省と日本歯科医師会が推進する80歳になっても20本以上自分の歯を保とうという運動。20本以上の歯があれば食生活に不自由を感じることはほとんどないといわれている)の目標を達成していないにもかかわらず、日本人の平均寿命は男女ともに80歳を超え、世界でもトップクラスの長寿国となっております。
日本においては、歯の本数が少なく食事に不自由があるのに、長寿であるということになります。医療の進歩により達成された長寿自体は素晴らしいことですが、自立して健全な生活を送れない状態になってしまうことは誰しもが回避したいことだと思います。
健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間は、健康寿命と定義され、やはりこちらの延伸も厚生労働省によって大きな目標の一つに掲げられています。それでは、健康寿命が途切れ要介護になってしまう原因はどうなっているのでしょう?
要介護になってしまう原因には、脳血管疾患、認知症、衰弱、関節疾患、転倒による骨折などが多くを占めます。多くの疫学研究では、歯の本数の多い方、または入れ歯などで口腔機能回復ができている方は、認知症になりにくく、転倒も少ないということが分かっています。歯が健康であれば、もしくは歯を失っても入れ歯などの方法で口腔機能の回復が出来れば要介護につながる認知症や転倒を予防し健康寿命を延伸することにつながるのではないでしょうか。
歯周病が大きく影響する?
最近の研究では歯周病は、歯を失ってしまうだけでなく、全身の健康に大きく影響を及ぼすことがわかっています。歯周病とは歯周病菌による細菌感染症であり、歯の根の周りの歯茎や顎の骨が溶けてしまう病気です。原因は歯周ポケット(歯と歯肉の間の溝)内に蓄積した歯垢(プラーク)や歯石です。歯垢や歯石の内部・周囲には歯周病菌が多く存在しています。これらが引きおこす炎症によって歯周組織が溶けていくのです。結果歯茎が膿んだり、歯がグラグラになって抜けてしまいます。
それでは歯周病がどうして全身の健康に影響するのでしょうか?
歯周病菌による炎症反応によって歯周組織で発生するサイトカインという体内物質や歯周病菌本体は、歯茎の血管より血流にのって全身にめぐります。結果、以下の疾患のリスクが高まるといわれています。
・糖尿病
・脳梗塞、心筋梗塞などの脳血管疾患
・関節リウマチ
・大腸がん
・誤嚥性肺炎
・早産、低体重児出産(ご妊娠中の方)
さらにやっかいなのは、実は歯周病という病気は進行が進むまで自覚症状が強く出にくく、歯科医院の受診間隔があいてしまうと気づかないうちに少しずつ進行してしまうのです。厚生労働省の報告では、程度の差はあれ成人の8割以上が歯周病に罹患しているとのことです。
歯の健康を守る予防方法とは?
歯の健康を守るためには、歯の健康を害する原因を除去することです。
虫歯の場合、原因としては歯質・糖質・虫歯菌・時間の4要素がありますので以下のように取り組みます。
・歯質を強化して酸に対する抵抗性を上げる
→フッ素配合歯磨剤の使用。歯科医院でのフッ素塗布をプロフェッショナルケア後に行う
・虫歯菌の活動エネルギーとなる糖質摂取量を減らす
→代用糖(キシリトール)の使用を心がける。普段の食事から糖質を減らす
・虫歯菌の数を減らす
→セルフケアを徹底する。定期検診の際にプロフェッショナルケアを行う。
・歯が酸に曝露している時間を減らす
→規則正しい食習慣を身につける。間食の回数を減らす。歯の面に長時間貼りつきやすい食べ物を避ける。歯間ブラシやフロスによりつまった食べかすなどは早急に取り除く
歯周病の場合は、原因となる歯垢や歯石、その周囲や内部に含まれる歯周病菌を除去することとなります。
歯周病の状態は、歯科医院で歯周病検査をすることで把握できます。進行してしまった部位は治療を受け、原因物質のたまりやすい部位(磨きにくい場所)をご自身で把握しましょう。そのうえで、適切な形態の歯ブラシ、フロス、歯間ブラシ、とその使用テクニックを学んでください。セルフケアの目標値は80%以上のプラークを除去できることです。取り除けない場所は定期検診の際にプロフェッショナルケアを受けます。
歯の健康を保つコツとは?
以上より、歯を健康に保つためには、よく歯磨きをし、歯科医院で定期検診を受けるということになります。
その他、
・規則正しい生活を送る
・睡眠時間を十分確保する
・適切な運動をする
・外出したり、他者とのコミュニケーションをとる
・ストレス解消の手段を作る
・よく噛んで食べる
・禁煙する
などにより、免疫力や抵抗力を高め、炎症が起こっても進行しにくいような生活習慣や身体づくりも、歯だけでなく全身の健康を保つために大事なことです。様々な研究より、歯周病→全身疾患の悪影響だけでなく、全身疾患→歯周病の悪影響も報告されています。全身の健康を保ち、メタボリックシンドロームなどを予防することで、歯周病も予防する手助けにはなるのではないのでしょうか。
まとめ
特別な場合を除き、加賀美歯科では初診時に歯の検査と歯周病の検査を行います。歯の検査では虫歯だけでなく、劣化し適合状態の悪くなった詰めものや被せものの診査を行います。こちらについても自覚症状がなく劣化や二次う蝕が進行することが多く注意が必要です。
また、歯周病は前述のように自覚症状なく進行していきます(サイレントキラーとも呼ばれます)ので歯周病検査により歯周状態を確認することは大切です。ほとんどの場合で前回のプロフェッショナルケアより3ヶ月以上経過していれば、歯周検査の結果に歯周基本治療が必要であると反映されます。
お困りであるところを治すだけではなく、長い目で見て歯を含め口腔内の健康を保つことで全身の健康に寄与できるように努めたいと思います。